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<ヒッチの設計について>うんちく前編

 まがいなりにも、私は設計者の端くれなのでヒッチやクレーンを設計するときにこんな手法で
強度検討をしています。鋼材を切った貼ったなら町工場でも十分作れるし、設計料は取っていないもののお金を貰う以上それなりのことはしないといけないなとおもいます。
よくヒッチデッキの問い合わせがありますが、これはそもそも運動の法則で言う仕事の向きが異なってきます。この件は後でゆっくり説明するとして、一番注視すべきは牽引車に働く慣性力がヒッチメンバーに及ぼすエネルギーがどれほどのものかということです。

車が動き始めた時は車とトレーラーに同じ向きの力が掛かっているので初速が付いてしまえば非常に小さな力でトレーラーを引くことが出来るでしょう。問題は停止するときです!あのくそ重たいトレーラーを止めるのだから相当な力が掛かっているに違いありません。
おそらく購入者様のほとんどがトレーラーを引いて日本全国津々浦々走り回っていることでしょう。
長距離走行には高速道路が使われているかと思いますので、ここでは牽引車の高速道路制限速度80km/hで走行中に急ブレーキを踏まなくてはいけない場面に遭遇したとします。

まず80km/hは時間走行距離なのでm/s(秒)に変換します。
80000m/h÷3600(秒)=22.222m/s   秒速22.2mということですね! はやっ!!

今回は自分のハイエース2350kgで総重量750kgのトレーラーを引いていることにします。さらに一般的なアスファルトの制動摩擦係数を0.7とします。

上記条件より制動距離をもとめると下式になります。
S:制動停止距離 V:速度 m1:自重 m2トレーラー μ:摩擦係数 G:重力加速度(9.8)


S=V2(m1+m2)/2μm1G=55.5m

おっと・・・こんなに止まらないのか・・・
停止時間はというと・・・

  t=2S/V=5秒

このときの減速度αは?・・・

  α=V/t=4.44 ということは9.8で割って見ると 0.45(G)

ってことは750kg×0.45でヒッチメンバーに掛かる力は337.5kgf(3308N)

通常はボルト4本で止まっているけど実際は後部の2本に集中加重が掛かると悪条件側に設定するとして、ボルトも材質SCM400といいたいところだけどホームセンター等で売っているのは、せいぜいSS400(炭素鋼)という条件で、JISの物性から引用してせん断許容応力78N/mm2としましょう。

M12のボルトの断面積に許容応力を乗じてこんな感じ

πr2×78=8817.12N(約900kgf) ということですね!

337.5kgf/2箇所=約170kgf

900kgf > 170kgf  安全率5.3倍 で問題なし

という具合にいきましたが、この場合ヒッチをひとつの剛体として計算しています。
実際はヒッチアームに掛かる曲げ応力を断面二次モーメントより求めたり、取り付け面のボルトの引き抜き強度も求めなければいけません。

そうです。ヒッチデッキはこの引き抜き強度に関わってきます。よくデッキ自体の耐加重をかいて販売しているのを見かけますが、ヒッチの設計強度もわからずに、どうやって決めてるの??です。

そこで単純に線形で書くとこのようになります。

















                    
少なくとも私は、@を選択します。ヒッチなので短期荷重OKのAという選択肢もありますが、やはり安全率ゼロの設計はいただけません。
□40で肉厚をt4.5に上げればいいじゃないかと思う方もいらっしゃるかと思いますが一般的に□40×t2.3以上は流通しておりませんので現実的ではありません。ページのスペースの関係上、構造計算の結果のみの掲載になっておりますが、実際はヤング率・断面二次モーメント・断面係数・材料物性を入力して計算しております。メーカーによりいろいろな手法で設計されていると思いますが、当工房は運動の法則と構造計算の観点からヒッチメンバーを設計していることをご理解いただけたでしょうか?また折を見て続編を作成したいと思います。

以上
デッキ先端に50kgfが乗ったと仮定します。このときとりつけボルトに掛かる力(R)は次式であらわせます。
R=(P・L)/H=1715N(約170kgf)

M12の引っ張り方向の許容応力はπr2×引っ張り許容応力98N/mm2=11078N(約1000kgf)となります。なーんだー!全然大丈夫だーっ!!

大ジョブではありませんっ!!たとえば段差等で車がバウンドしたとします。このときの重力加速度による衝撃加重はというと、落下速度4.4m/sで0.1秒で掛かったと仮定します。

4.4×490N/0.1=21560N(約2000sf)となり倍になります。左右二箇所なのでボルト一本あたりの衝撃加重は1000kgf近くになります。この時点で NGです。
さらに追い討ちをかけるように薄い車のフレームにも問題があります。車のフレーム引き抜き強度はフレーム材質の許容応力に板ナットの当たり面積を乗じた値で出てきます。これは車種により異なりますが、最近の車は皆モノコックで薄鉄板です。あまり強度は期待できないでしょう。
<鋼材の断面二次モーメントとヒッチ角バーの選定>うんちく続編

 最近よくパイプ細くできませんか?40角くらいになんて言われる方がいらっしゃいます。それはただ作るだけでよいならば材料コストも下がるしコンパクトで
設計も楽です。構造計算をされる方はよくご存知かと思いますが、材料の強度(曲げ応力)というのは断面積に比例しています。
上記理由により当方のヒッチメンバーはSS400(一般構造用炭素鋼板)の□50パイプを使用し同じ□50でも牽引クラスによって肉厚を変えています。前編でハイエースの80km/hからの急ブレーキを想定してヒッチメンバーに掛かる荷重を算出しました。そのときのヒッチメンバーに掛かる荷重は337.5kg /fです。これを元にメンバー(□50)に集中加重が掛かったときの曲げ応力を解析しますと下記のようになります。
続編(2014.4.30)